鑿構周期律 · 経済
経済シリーズ
勘定が世界を測り、余項がそれを押し開くまで
貨幣のない贈与経済からサトシ・ナカモトと評価社会まで、経済思想と制度の歴史を鑿構周期律で読み直す。秩序は以前の亀裂に応えて構を築くが、構が覆えない余項は消えず、移動し、次の変化を準備する。
価格、帳簿、貨幣、効用、リスク、スコアは、異なるものを一つの尺度で扱えるようにした。その成功のたびに、人間関係、無償労働、慣習的権利、生活の不安、内面といった換算しきれないものが姿を現す。
本版は中国語原文の論証と史料を土台に、日本語読者の語感と論考のリズムに合わせて構成から書き直した独立編集・再構成版である。
- 第01篇・全23篇互酬と贈与――清算しないから関係は続くクラ交易、ポトラッチ、危機を分け合う贈与網を手がかりに、貨幣以前の経済を物々交換ではなく、返し終えない義務が人を結ぶ制度として読み直す。
- 第02篇・全23篇神殿の帳簿と最初の債務帳消し――文字は負債のために生まれたメソポタミアの粘土板は穀物、銀、租税、労働を持続する債務へ変えた。正確な帳簿が社会の基盤を壊すとき、王の免除令がなぜ必要になったのかをたどる。
- 第03篇・全23篇リュディアの鋳貨――価値を発明せず、尺度に身体を与える紀元前7世紀のエレクトロン貨は、金属を毎回量り試す作業を刻印へ圧縮した。見知らぬ者同士の決済を広げた鋳貨が、匿名性の下に発行者の権威を刻んだ過程を追う。
- 第04篇・全23篇公正価格と利子禁止――物差しが測ることを拒んだもの中世の公正価格論と高利禁止は、他人の窮迫まで価格へ取り込まないための境界だった。信用を塞ぐ規範と、別名で戻る利子の両面を考える。
- 第05篇・全23篇複式簿記の発明――問わなければ帳尻は合うすべての取引を借方と貸方へ記す複式簿記は、自ら誤りを検出する強力な構を作った。しかし合計の一致は、事実の正確さや事業の正当さを保証しない。
- 第06篇・全23篇宋代の交子――金属が退けば、誰かが約束を引き受ける四川の重い鉄銭から生まれた交子は、紙の材質ではなく商人の名と国家の租税受納で価値を得た。発行約束が揺らぐとき、損失を誰が負うかが紙幣の核心になる。
- 第07篇・全23篇大航海と重商主義――値を付ける前に数える貿易収支と銀の流れを国家の帳簿へ置いた重商主義は、鉱山、会社、プランテーション、人間の労働を計数可能な単位へ組み替えた。
- 第08篇・全23篇大西洋奴隷貿易――完璧な計算が残した自己告発積載密度、到着価格、保険金、奴隷主補償まで、人間を精密に価格化した制度は、その成功ゆえに測れない自由と抵抗を証拠として浮かび上がらせた。
- 第09篇・全23篇スミスと見えざる手――余項は書棚を離れていなかったアダム・スミスは利己心だけで市場が完成するとは書かなかった。共感、正義、自制、教育を含む著作から一部だけを残した後世の圧縮を解く。
- 第10篇・全23篇限界革命――価値が意識へ入り、数になって出てきたときジェヴォンズ、メンガー、ワルラスは価値を最終単位、主観的判断、連立市場の均衡へ移した。統一言語を得た経済学が何を学問の外へ置いたかを問う。
- 第11篇・全23篇マルクスと労働価値――余項を記す帳簿も閉じない労働と労働力を分け、等価交換の内側で生じる剰余を追ったマルクス。その理論にも残った歴史的・道徳的要素と、賃金契約の隠れた信用を読む。
- 第12篇・全23篇無償労働――記録されないから経済は回った家事とケアは国民勘定の境界外に置かれながら、賃金労働と市場を再生産してきた。時間調査とサテライト勘定が示す規模と限界を考える。
- 第13篇・全23篇コモンズと囲い込み――証明できない権利は誰のものか村の記憶と慣習に支えられた共同利用権が、測量図、証書、排他的所有へ翻訳された。囲い込みの効率と、証明責任が生んだ喪失を読み分ける。
- 第14篇・全23篇金本位――自動調整という物語を支えた人々黄金の重量に通貨を結ぶ制度は、為替の安定と信用を生んだ。しかし同じ規則は中核と周辺で違って働き、調整費用を失業と賃下げへ落とした。
- 第15篇・全23篇大恐慌とケインズ――価格を下げても人は戻らなかった産出と物価が崩れても大量失業が消えなかった1930年代。ケインズは個々の合理性が全体の停滞を作る仕組みを、有効需要から組み直した。
- 第16篇・全23篇分配の飢饉――食料がある世界で誰が飢えるのかアイルランド、ベンガル、中国の飢饉を、総食料不足だけでなく購入権、配給資格、行政順位から読む。冊子の外に置かれた人々の歴史である。
- 第17篇・全23篇ブレトンウッズと1971年――金の覆いが剥がれ、信用が姿を現した日金を共通分母としながらドルを頂点に置いた戦後通貨体制。その安定が生んだ矛盾と、金兌換停止が露わにした信用の階層を描く。
- 第18篇・全23篇金融化――帳簿が別の帳簿を記録し始めるオプション価格、株主価値、証券化、影の銀行。危険を分解し取引可能にした金融化が、連結部分の危険を見失うまでを追う。
- 第19篇・全23篇2008年――救済の名簿に誰の名があったか金融危機は、相互連結した機関を救い、孤立した世帯を後回しにする制度の優先順位を露呈した。縦の連鎖と街路の損失の非対称を読む。
- 第20篇・全23篇プラットフォームとデータ経済――行動する前の可能性を売る検索、クリック、追跡、友人関係から予測可能な外見が作られる。データ経済が余項を回収するのでなく、行動の源を作り替える過程を考える。
- 第21篇・全23篇スコア社会――数字の人格が本人より先に着く商人の人物評から信用点、債券格付け、星評価まで。評判を共通尺度へ変える構が、関係を開くと同時に説明と訂正を遠ざける。
- 第22篇・全23篇サトシ・ナカモトと暗号通貨――信頼を消す設計の行き先暗号技術、プルーフ・オブ・ワーク、分散台帳を結んだビットコインは第三者を外そうとした。信頼が取引所、開発者、電力へ戻る経路をたどる。
- 第23篇・全23篇評判と貨幣の絡まり――一方は記憶し、一方は忘れる割符、債務、中央銀行、星評価、ブロックチェーンを通して、貨幣と評判がともに約束の記録から生まれながら、なぜ一つに溶けないかを総括する。