Han Qin · 紅楼夢・新たな三十回

第八十五回聡き探春は帆を揚げて南溟へ赴き慧き惜春は髪を剪りて西寧を拒む

秦漢による創作続篇です。曹雪芹の佚稿や、その発見・復元を主張するものではありません。

さて、賈母の葬儀が済んだばかりで、喪の幕もまだすっかりは取り払われていなかった。前日、宦官が一人屋敷へ来て二言三言伝えていったと思うと、翌日には吏部から辞令が下り、賈政は勅命により服喪を切り上げて復職し、工部郎中に昇進した。門番が祝い事を知らせる声をひと声上げると、各部屋の差配役が皆、叩頭して祝いを述べに来て、追従を並べ立てた。賈政は白い喪服の身で宴席を設けるわけにもゆかず、ただ、「各々これまでどおり仕事をせよ。祝い事を口実に、余分な祝儀をもらおうとしてはならぬ」と申しつけた。外からは祝い状が次々と届けられ、朱色の名刺が書斎の机に積み重なって、「謹言慎行」と書かれた白い紙を覆い隠し、「慎行」の二文字だけがのぞいていた。

王夫人はお礼の品を用意させ、賈政と連れ立って北静王府へ挨拶に出かけた。北静王は用事があるとて会わず、長史に、表の広間で賈政の茶の相手をさせただけだった。長史は自ら茶を勧め、礼をして笑顔で言った。「王さまはあいにく本日、どうしても手がお空きにならず、特に私をここでお待ちするようお命じになりました。お屋敷では大事をお済ませになったばかりですから、何事につけても派手なおもてなしは差し控えました。もし行き届かぬ点がございましたら、どうぞお許しください」。王夫人は奥へ入り、王妃にお目にかかった。王妃は病み上がりで、淡い青に喜相逢の対い模様を織り出した舶来毛織の普段着の上着を着ていた。王夫人を見ると、「このごろ宮中にはいろいろございますから、わたくしたち親類の者は、なおさら各々静かにしているべきでしょうね」とだけ言った。二言三言話すうち、ふと自分から笑いだして言った。「この二年ほどの間にも、娘を寄越した家が幾つかありましたのに、うちの王は皆そのまま送り返してしまいましたの。部屋はいくらもありますけれど、身の回りに気のつく人は、やはりもう一人欲しいものですわ」

王夫人はそれを聞き、手にした茶碗の蓋をそっと縁に触れさせ、愛想笑いをしながら尋ねた。「王さまは、本当にお一人もお留めになりませんでしたの?」

王妃はまた笑った。「一人も。まだお気に召す人にお会いにならないのでしょうね」。そう言うと話をそらし、賈母の葬儀の始末はすべて済んだかと尋ねた。

王夫人は一つずつ答え、ふと顔を上げると、窓際の小卓に、黄金色に輝くものが置かれているのに気づいた。一尺ほどの小舟で、帆柱も帆もそろい、下には車輪と軸がついていた。王夫人は一度見て、もう一度眺め、茶碗は手に持ったまま、口へは運ばなかった。

王妃はその見とれる様子に、笑って言った。「西洋人の作った自走船ですの。ねじを巻くと、水の上をしばらく走ります。うちの王はこういう玩具がお好きなので、蔣という者に頼んで、外で半年以上も探させ、やっとこれ一つ見つかりました。ずいぶん高かったのですけれど、それでも買いまして、王の誕生日に差し上げようと待っておりますの。以前のあの家から流れ出た品だそうです。今ではこういうものは、お金があっても手に入るとは限りませんわ」

王夫人は、「王妃さまの、そのお心づかいでございますね」と言って茶碗を置き、もう少し世間話をしたのち、暇を告げて退出した。

屋敷へ戻って二の門を入ると、王夫人は尋ねた。「王さまは何かおっしゃいましたか」。賈政は、「長史と挨拶を交わしただけだ。帰り際に、長史が王のお言葉を伝えてくれた。今は外の風向きがきびしい、くれぐれも慎重に事を運べとな」と言って口を閉ざした。しばらくしてまた尋ねた。「王妃はおまえに何を話された」。王夫人は、「みな身内の世間話でございました」と答えた。

王夫人は自分の部屋へ戻ると、王府から贈られた香餅一箱を玉釧児に渡してしまわせながら、周瑞の女房に尋ねた。「四のお嬢さまは、このごろ静かにしているかい。櫳翠庵の、あの妙玉さんは、まだいるのかい」

周瑞の女房は答えた。「奥さま、四のお嬢さまは一日じゅう戸を閉めておいでで、お食事も彩屏が戸口で受け取って運び入れております。妙玉さまもあまりお出ましになりません」

王夫人はうなずいた。「分かった。もう下がっておいで」

賈政は書斎へ戻って座り、各方面からの祝い状を見ていた。そこへ趙姨娘が泣きながら飛び込んできて言った。「旦那さまは今度ご出世なさいましたし、宝玉も大奥さまのお言葉どおりに縁組をなさる。家じゅうがおめでたいのに、環だけは旦那さまの息子ではないのですね。環ももう大きくなりましたのに、あの子の一生について、ひと言でもお尋ねになりましたか。以前、気に入った侍女が二人いる、一人は宝玉に、一人は環に、とおっしゃったでしょう。あれから何年もたつのに、娘の影一つ見えやしません。あちらのお部屋だけ金だの玉だのをお嫁に迎えて、わたしら母子は一生、後回しでいろとおっしゃるのですか」

賈政は怒鳴った。「また何を騒ぎに来た。喪も明けぬうちから、そんなことで騒ぎ立ておって。環はいつも勉強もせず、ろくでもない連中とつるんでばかりいる。どこの家が、よい娘をあれに嫁がせようというのだ!」

趙姨娘は泣いて言った。「悪い子でも旦那さまの息子でございます。悪い子だから嫁も取ってやらず、ますます悪くなれというのですか。いっそ母子とも死んでしまった方がさっぱりします!」

賈政は机を叩いた。「たわけ者! 追い出せ! 追い出してしまえ!」

趙姨娘がまだ死ぬの生きるのと騒ごうとすると、戸口の小者が急いで入ってなだめた。仕方なく涙を拭きながら、「どうせわたしらは余計者ですもの。大奥さまがお亡くなりになったら、もう味方をしてくれる人もいない」と泣き、顔を覆って出ていった。

賈政は長いこと座り、祝い状を一通取り上げては置き、ふいに深いため息をついて、そばの小者に尋ねた。「環は今年いくつになった」

小者は答えた。「数えで、もう十五でございます」

賈政は何も言わなかった。晩になって王夫人の部屋へ行き、趙姨娘が騒ぎに来たことを話すと、王夫人は言った。「騒ぎようは無分別でも、その言い分はまるで道理がないわけではございません。ただ環のあの気性では、並の家の娘では抑えが利かないでしょう」

賈政は言った。「母上のご存命中、櫳翠庵にいる妙玉の祖母のことをよく聞かされた。二人は何十年来の旧友で、まだ嫁入り前には、一人は六安茶を、一人は老君眉を好み、三日とあけず集まって茶を飲んでは、この二つの茶の優劣をいつまでも言い争い、しまいにはそれぞれ一首の詩を作って比べたという。母上の詩は、老君眉を詠んだものだった」。そう言ってゆっくりと吟じた。

寿眉は露を含みて 波はまさに清く、
寒窓に向かいて 苦き苛酷を求むるなかれ。

白髪の人の杯前に 濃き味を消し、
袖底の清風となりて 久しき病を解く。

野性のまま霜寒をしのぐには ふさわしからねど、
華堂に太和を養うには ひときわ似つかわし。

冷顔の六安よ いたずらにおのれを苦しむ、
人の世に幾人か その中に日を送らん。

吟じ終えると、さらに言った。「その旧友も負ける気はなく、六安茶の詩で応じたのだ」

雨後の茶の香 繍閨に入り、
会えばいつも 詩の題を競うを楽しむ。

碗の中の若葉 新緑を開き、
鼎のほとりの薄煙 竹渓をめぐる。

濃き甘味は口に過ぎると 笑い語り、
苦き茶こそ人を酔わすと のどかに誇る。

明日もし いずれが先に負けを認めたかと問うならば、
笑い終えて手を取り合い 小径を行かん。

吟じ終わると、部屋はしばし静まった。王夫人は茶をひと口飲み、「お二人とも、どちらも譲る気がおありでなかったのですね」と言った。

賈政は言った。「母上のお話では、その旧友は一生、孤高を守った人で、亡くなるのも早かったという。妙玉は祖母を亡くしたのち、父母も相次いで世を去り、ただ一人残されて、有髪のまま仏道修行をし、流れ流れて都へ来た。母上はその昔のよしみを思い、あの年、本当はあの子をうちの者にするおつもりだったのだが、その後いろいろと事が重なり、とうとう果たせなかった。今、母上が亡くなられては、妙玉もこの屋敷で頼る者がいなくなった。あの果たせなかった願いを、わたしが母上に代わって遂げよう。妙玉を環の正妻にするのだ。一つには母上の昔からの願いがかない、二つにはあちらの部屋が毎日やかましく騒ぐのもやみ、三つには身寄りのない孤児の娘を引き立ててやれる。環もあのような者に抑えられれば、少しは改まるかもしれぬ」

王夫人は聞いて、しばし考え込んだ。「有髪で修行をしているとはいえ、やはり閨秀ですもの。あまりにも気位が高くて、承知しないのではございませんか」

賈政は言った。「まず人をやって聞かせてみよう。ほかのものではなく、正妻にするのだとはっきり言わせるのだ」

翌日、年配の女中に茶菓を二品持たせ、庵へ使いにやった。女中はこの役目を仰せつかって、天にも昇るような吉報だと思い込んでいた。門を入ると妙玉が手を清めているところだったので、満面に笑みを浮かべて言った。「お嬢さま、おめでとうございます。旦那さまと奥さまは、お嬢さまがお独りでお頼りもなく、そのうえ大奥さまがかねてお大事にしていらしたお方だというので、このたび、うちのお身内に迎え、環三の若旦那さまに嫁いでいただこうとお考えになりました。ご安心なさいまし。正式のご夫婦になるのであって、お妾さまではございません。これからはお屋敷のお世話も受けられますし、この寒々とした庵を守っておいでになるより、ずっとようございますでしょう」

妙玉の手から、水滴が一滴ずつ銅の盆に落ちた。顔は上げなかった。

女中は返事のないのを見ると、さらに一歩近寄り、笑って言った。「お嬢さまはまだご存じないでしょうが、これは郎中の旦那さまのお恵みなのですよ。環三の若旦那さまは幾つかお若いけれど、世間にも『女房が五つ年上なら、年老いた母にも勝る』と言うじゃございませんか。お嬢さまのほうがその幾つか年上でいらっしゃるから、この先は若旦那さまもよく手なずけられましょう」

言い終えもしないうちに、妙玉の顔色はもう変わっていた。冷たくひと笑いすると、手拭いを盆の縁に置き、女中を見もせずに立ち上がり、青い木綿の垂れ幕をかき上げ、さっと奥の間へ入った。幕が落ちて、それきり出てこなかった。

女中はその場でしばらく待ったが、中で戸に閂をかける音がしただけだったので、面目なさそうに引き下がった。庵の門を出ると、道々ぶつぶつ言った。「まあ、果報のないお嬢さんだこと。貴公子の正妻になれるというのに承知しないとは、まさか天王や玉帝がお迎えに来るのを待っているんじゃあるまいね」

報告を聞いた賈政は不快そうな顔をし、「もうよい」とだけ言った。王夫人は、持ち帰った二品の茶菓をしまわせた。

幾日かたった。瀟湘館の窓の前の竹の葉は、ひと晩の冷たい雨に洗われ、青々としていた。黛玉は病の具合が少しよくなり、朝早く雪雁にジャワの沈香を一炉焚かせ、自分は窓の下に座って琴を弾こうとしていた。紫鵑は急いで狐の脇腹の毛皮で作った柔らかな枕を背にあてがい、笑って言った。「やっと少しおよくなったのに、またこれですか。気をお疲らしにならないようになさいませ」

黛玉は笑って言った。「琴も、わたしを疲れさせようとは思っていないわ。ただこちらが琴を借りて、気をまぎらしているだけよ」

そう言うと、しばらく弦を調えた。その時、部屋にはほかの人はいなかった。紫鵑は外の間で薬を煎じ、雪雁は廊下で花枝の世話をしていて、内にも外にもこの主従三人だけだった。黛玉はまず「猗蘭操」を弾いた。初めは指の運びもごく緩やかで、音は人のいない谷を渡る微風のようだった。幾度か旋律が重なるにつれ、蘭の趣は深まり、応える者はなくとも、おのずから清らかな香りが漂うのであった。曲も終わらぬうち、窓の外で誰かが即興の絶句を吟じた。

人なき谷の幽蘭は 春を待たず、
露寒く霜重くとも おのずから凜たり。

芳しき心を 人に知らるる要あらんや、
月の下 風の前に ただ一筋のまことあり。

紫鵑が簾を上げて見ると、妙玉だった。幼い侍女を一人だけ連れ、淡い青の無地の外套をまとい、靴の縁には濡れた泥が幾点かついていた。黛玉は急いで通すように言った。妙玉は琴の卓の脇に座り、黛玉が末尾を弾き終えるのを聞くと、蘭には触れず、先に琴のことを言った。「この曲は、以前より音の間があいているわね」

黛玉は笑った。「弦も古くなったし、人も怠け者になったのよ」

妙玉は言った。「その間のあいているところが、かえっていいわ」。紫鵑が茶を運んで入ると、琴の弦がまだかすかに震えていたので、何も尋ねず、茶を置いて出ていった。黛玉は笑って言った。「わたしのところには、梅の花に積もった雪はないのよ。我慢してお飲みになって」。妙玉は言った。「今日は水のことは言わないわ」

黛玉もそれ以上は言わず、そのまま手を返して「高山流水」を弾き始めた。ある時は千尋の断崖、ある時は谷間に落ちる泉の響き。妙玉は指で茶碗を軽く叩き、音に合わせて低く吟じた。半ばまで吟ずると、曲の趣が高山から流水へ移り、水の流れは遠ざかるほどに行方も定かでなくなった。妙玉の、茶碗を叩く手が止まった。

黛玉は弦を押さえ、笑って言った。「見つかったのなら、言うまでもないわ。見つからなくても、言わなくていいのよ」

妙玉はそれを聞いて、即興の絶句を吟じた。

峰は高し 人に重んぜられんがためならず、
水は遠し ただ行く先に従いて長し。

今日 弦のほとりに一人の知音を得たり、
孤桐はもとより 宮商の調べを求めず。

黛玉は妙玉を見やって言った。「それは、あなた自身のことをおっしゃっているようね」

妙玉はただ茶碗を取り上げ、ひと口飲んだ。

やがて黛玉は「瀟湘水雲」に移った。琴の音が起こると、折しも窓の外の竹の影が風に乱れた。前半は煙る水面のように朦朧とし、後半には次第に、遠い浦の孤舟の趣が立ち現れた。妙玉はある一節を聞くと、こう和した。

瀟湘の雲水 まさしく人を愁えしむ、
一棹 漂いゆくは いずこの渡し。

弦の中にわたしを見るとも 怪しむなかれ、
天の果て ともにいまだ帰らぬ身なり。

黛玉は言った。「瀟湘という二文字を、わたしが独り占めしてはいけなかったのね」

妙玉は言った。「土地はもともと、誰の姓を名乗るものでもないわ。あなたが住めば、そこにはあなたの水と雲が一重、加わるのよ」

黛玉は答えず、また「遊春弄」を弾いた。この曲は軽やかな調べで、半ばにさしかかったところで、廊下の雪雁が花瓶を取り替え、瓶の中の水仙の一枝に触れて、かすかに揺らした。黛玉の指の下には、ふいに昔の春の光が幾分か加わった。妙玉はまた一絶を和した。

花の下 古き書を読みさすうち、
年月はひそかに 水音を追いて急ぐ。

春が去れば尋ねるところなしと 言うなかれ、
人はなお 回廊に立ちて夕陽を浴ぶ。

黛玉は聞くと、指の運びをほんの少し緩めたが、それでもこの曲を最後まで弾いた。

最後にまた「神人暢」を弾いた。この曲は音の広がりが大きく、初めの幾節かは澄み渡り、次第に長風が峰から吹き出すようになった。妙玉は目を閉じて聞いていたが、ひときわ高まるところへ来ると、ふいに目を開き、即興で吟じた。

俗塵の門は閉ざすとも 天に錠なし、
清き響きは長く流れて 聞かるるを待たず。

一声 峰を出でなば 誰にも縛られず、
夕暮れの雲にも 負けたることなし。

黛玉は言った。「門はいつも、人に閉められるとは限らないわ」

妙玉は黛玉を見つめ、二人はしばらく言葉がなかった。

妙玉は茶を半碗ほど飲み、尋ねた。「宝二さまは、このごろもよくいらっしゃるの?」

黛玉は答えた。「よくいらっしゃるわ」

妙玉は「ああ」とひと言、茶碗を置いた。しばらくしてようやく言った。「わたしは、もう少ししたら発つの」

黛玉は尋ねた。「どちらへ?」

妙玉は答えた。「南へ」

黛玉は手を伸ばして琴の糸巻きを調え直し、あらためて「思賢操」を弾き始めた。今度は初めから音が低く、昔の人が去ったのちも、空の広間にまだその靴音が響いているようだった。妙玉は端座して聞いていたが、中ほどまで来ると、「この曲は、少し悲しすぎるわ」と言い、手を伸ばし、震える弦の上に二本の指をそっと置いた。

黛玉は手を止めず、そのまま押さえさせていた。最後のひと音が指の下から落ちた。香炉の香も、ちょうど燃え尽きた。

妙玉が帰る時、黛玉は部屋の戸口までしか送らなかった。妙玉は言った。「外は濡れているから、お出にならなくていいわ」。黛玉は戸の枠につかまり、妙玉が竹の橋を渡るのを見届けてから、ようやく戻って腰を下ろした。

妙玉は園を出る時、ちょうど周瑞の女房が二人の既婚の女中を連れ、帳や反物を捧げ持って怡紅院の方へ行くのに出会った。歩きながらこう話していた。「旦那さまと奥さまのお言いつけで、奥のお部屋を整えるのだよ。生年月日を書いた婚書も見つかったし、あとは日取りを決めるだけだ」。妙玉は立ち止まって二言ほど聞くと、また歩きだした。幼い侍女は何事かと尋ねたが、妙玉は答えなかった。

宝玉の縁組は、なかなか日取りが決まらなかった。そうこうして暮れゆく冬、陰暦十二月が過ぎ、またたく間に正月も尽き、早くも二月になった。さて、この日、外から戻った茗煙が、宝玉にそっと告げた。「南安郡王府ではお達しを受けて、お嬢さまを一人、遠い海の国境へ、異族との和親のために嫁がせることになったそうです。太妃さまは実の娘を三千里の外へやるのが惜しくて、養女を取り、王府のお嬢さまという身分で代わりに行かせるおつもりとか」。宝玉は聞いて納得がゆかず、瀟湘館へ来て黛玉に言った。「まったく腹が立つ! こんな理屈に合わないことがあるものか。和親をするというのなら、王府にはちゃんと実の娘がいるじゃないか。どうしてよその家の娘を養女にして、代わりに外へやるんだろう」。黛玉は窓の下に寄りかかって本を整理していたが、それを聞くと、ただ言った。「あなたは養女にするのが理屈に合わないとばかり思っていらっしゃるのね。でも誰が、自分の娘を三千里の外へ送りたいと思うかしら」。宝玉ははっとして、返す言葉もなかった。

ところが幾日もたたぬうち、南安太妃がじきじきに訪ねてきた。王夫人は急いで李紈、探春らとともに奥の広間で迎えた。南安太妃は探春の手を取り、しばらくつくづくと見てから言った。「この前、おばあさまのお誕生日に、この家のお嬢さんたちの中で、あなただけをわたしに会わせてくださいましたね。その時から覚えています。今日は遠い所にかかわる話があって、まずあなたに聞いてもらいましょう」。そう言って、和親のために養女を取る話を初めから終わりまで説明し、また言った。「今度の旅は山も川も遠く、都にいるのとはわけが違います。名分の上ではわたしの養女として、礼式はすべて郡王府の実の娘と同じにいたします。あなたにその気がなければ、今日はそれでおしまいにして、ほかの家を探しましょう」

王夫人が口を開こうとした時、探春が先に言った。「わたくしが行けるのでしたら、どうぞ太妃さま、お取り計らいくださいませ」

太妃はしばし探春を見て言った。「もう少し考えなくてよいのですか」

探春は言った。「もう考えました。侍書だけは一緒に連れていかせてください。そのほかは多くお付けくださらなくて結構です」

太妃はうなずいた。「よい子ですね。みなあなたの言うとおりにしましょう」

太妃はさらに、供の長史を外の書斎へ遣わして賈政に会わせ、勅命を受けたいきさつを説明させた。賈政は聞いて、しばらくしてようやく言った。「勅命のことでもあり、娘も自ら承知したのであれば、どうぞ太妃さまにお取り計らい願いたい」

その日、養女の名分が定まり、二月二十六日を出立の日と決めた。この年は清明がちょうど二月二十六日に当たり、礼部の催促もきびしく、屋敷での支度には二十日あまりしかなかった。皆が探春の衣類や嫁入り道具をせわしく整える中、当人はまず、かつて園を管理した時に残った小さな帳面を何冊か取り出して李紈に渡し、言った。「この中に、まだ小作料の清算が済んでいない所が幾つかあります。祝ばあさんの竹も、田ばあさんの田んぼも入っています。それから植木屋二軒の手間賃も未払いです。今の園にはあの人たちをそれほど使う仕事もないでしょうから、払えるものは払って、無駄足を踏ませないようにしてください」

また、小さな鍵の束を取り出し、翠墨に渡して言った。「わたしの部屋に残したものは、お嬢さんたちで見て分けてちょうだい。姨娘の毎月の銀は、これまでどおりお受け取りいただいて。わたしが行くからといって、減らすことはないわ」

翠墨は鍵を受け取り、言った。「お嬢さま、もうお言いつけにならなくても大丈夫です」

探春は翠墨を見て、さらに趙姨娘がいつも使う薬の処方を取り出し、鍵の下に置いた。そばでは侍書が持っていく箱を減らしに減らして、四つだけにしていたが、そのうち一つには、お嬢さまが日ごろ臨書する法帖と硯が幾面か入っていた。初め供に決まっていた二人の年配の女中は、海路が危険だと聞き、陰で泣いて行きたがらなかった。侍書はそれを知ると二人を呼び入れ、言った。「お嬢さまは、命を売れとはおっしゃっていないのよ。怖い者は帰っていいわ。路銀もちゃんと出します。ただ船に乗る間際になって仮病を使い、事を損なうようなら、皆の前で顔をつぶされても恨まないで」。そう言って一人に銀を幾両かずつ渡し、代わりに行く気のある既婚の女中を二人選んだ。

出立の前日、探春は各部屋へ別れの挨拶に回った。趙姨娘の部屋へ行くと、趙姨娘は天地に響くほど泣きわめいていたが、探春の袖をひっつかむと、ますます声を張り上げた。「こんなに立派な娘を、あの人たちは王府の娘の代わりに、三千里も先の火の穴へ投げ込むなんて、わたしはどうしてこんなに不幸なんだろう!」。しばらく泣いていたかと思うと、ふいに涙を収め、そばへ寄って声をひそめた。「おまえは今度、王府の娘になったのだから、前より十倍も立派な身分だよ。今度ばかりは本当に、高い枝を選んで飛び移ったね。環はなんといっても同じ腹から生まれた弟だ。あちらで少しでも足場ができたら、あの子を引き上げてやるのを忘れるんじゃないよ」。探春はただ銀の包みを一つ炕の上へ置き、言った。「姨娘、しまっておいてください。環のことは旦那さまがいらっしゃいます」

趙姨娘は袖をつかんだまま言った。「今度行ったら、いつ帰ってくるんだい」

探春は冷たく笑って言った。「船には帰る時があっても、人にはあるとは限りません」

趙姨娘は呆然とし、急に息が詰まって、声もなく涙を流した。探春はそっと袖を抜き、身を返して去っていった。

趙姨娘の部屋を出ると、探春はまた瀟湘館へ行き、黛玉に別れを告げた。黛玉は無理をして起きて迎え、二人は長いこと向かい合って座っていた。探春は笑って言った。「林姉さま、お大事になさってね」。黛玉は言った。「わたしに分からないわけではないのよ。こうして行くほうが、残るよりはましでしょう」。探春は言った。「このお屋敷の有様は、よく見えているわ。木が倒れかかる時には、自分で歩ける者は、まず自分で一歩、出ていかなくては」。黛玉は聞いてしばらく黙り、目を少し潤ませて、ようやく言った。「あなたの言うことは、わたしにも少しは分かるわ。ただ、あなたのほうがわたしより、よく見通している気がするの」。探春は淡く笑った。「姉さまには、そこまではっきりご覧にならなくてもよい事もあるのよ。わたしは下から見上げてきたのですもの。よく見えるのも、仕方がなかったからだわ」。黛玉はすぐには返事ができなかった。探春は立ち上がって言った。「お話はこれまでにしましょう。姉さま、何よりも、お身体をよくおいたわりになってね」

清明のその日は、薄曇りだった。探春はまず、目立たぬ地模様のある喪服を着て宗祠へ入った。代々の祖先の位牌の前には、香煙が重く立ちこめていた。最上段から末席まで一柱ずつ拝し、それを三度繰り返した。立ち上がると額に蒲草の円座の埃が少しついていたが、目に涙はなかった。賈政は祠の外で待っていて、出てきた探春に、ただひと言、「向こうへ着いたら、何事も慎重にな」と言った。

探春は急いで両膝をつき、叩頭して承知したのち、答えた。「父上、お妃さまのあの四文字を、どうぞ大切に」

賈政は杖で石段をどんと突いて言った。「分かっている」

探春は立ち上がると、すぐ車に乗った。渡し場へ向かう途中、城の南の空き地で子供が幾人か凧を揚げていた。真っ赤な蝶の凧が一つ、高く上がっていたが、ふいに横風に糸を引きちぎられ、ふわふわと川原へ落ちてきた。探春は車の簾をほんの少し上げて眺めた。凧は車の屋根をかすめ、川原へ飛んでいった。侍書が、「お嬢さま、何をご覧なのですか」と尋ねると、探春は簾を下ろし、「何でもないわ」と答えた。

渡し場へ着くと、官船が川の中ほどに泊まり、岸辺には送迎用の小舟が別にあった。船頭が一人、水を隔てて、「お屋敷の方、こちらですよ!」と呼び、竿を操って小舟を石の岸へ寄せた。王府の儀仗の供はさほど多くなく、幟はどれも風に巻かれていた。川風は強く、波は次々に押し寄せて岸の石に砕け、白い泡の層になった。賈政、王夫人、李紈、宝玉、宝釵らが岸まで見送った。趙姨娘はとうとう来ず、ただ翠墨に、鵲が梅にとまる模様の織り錦の香袋を届けさせた。翠墨は香袋を探春に渡して言った。「姨娘のところには、わたしがおります」

探春は受け取って箱の角に結びつけ、ひと言も言いつけはしなかった。

侍書は急に代わった二人の既婚の女中が、まだ岸辺でためらっているのを見て、すぐに言った。「船が出ますよ。行く気なら乗って。嫌なら路銀をもらって帰りなさい」。二人はそこでようやくついてきた。探春が渡し板を踏んだ時、宝玉が「三の妹」と呼んだ。探春は足を止めず、「二の兄さま、お帰りになって」とだけ言った。

宝玉はなお前へ出ようとしたが、王府の長史はもう探春を船室へ案内しようとしていた。探春は入らず、ただ舳先に立った。もやい綱が解かれ、小舟は石の岸を離れ、川の水が船腹の下で低い音を立てた。岸にいる人々の喪服は、次第に一つの白い影に溶け合っていった。

小舟が官船に横づけされ、探春は大船へ移ると、ようやく船室に入って座った。侍書は船室の風が冷たいので、急いで箱を開け、猩々緋の羅紗の外套を取り出して着せようとした。探春は首を振った。「しまっておいて」。また侍書に紙と筆を取ってくるように言い、船室で黙々と一篇を書いた。書き終わると、自分で低く一度読んだ。

秋爽にてかつて期したり 天の河を引き寄せんと、
むなしく片手を投じ 群魔を治めんとす。

かねて知りぬ 内院こそ先に自滅すると、
大廈まさに傾かんとして いかんともせん。

今朝 朝廷より風の便りあり、
紅粧は和親のため 遥かな波路へ出づ。

花々は泣いて抱き寄り 遠き嫁入りを悲しみ、
わたしが漂泊の身となり 網に落ちたと言う。

知らずや 朱門も破れ草履に等しきを、
俗塵の網は崩れ迫る ひとまず自ら脱れん!

昔 明妃は雁門を出で、
黄砂に馬を返して 漢の宮城に背を向けたり。

わたしは今 帆を揚げて南溟に赴き、
むしろ宗祠を辞して 幾重もの波を渡らん。

瘴気の国の風波の険しきを 怨むなかれ、
鬼面あまたなる昭陽に まさりたり。

わたしは今 この和親の仕組みを借りて、
栄寧に血の涙を流す絆を 断ち切らん。

わが身の故郷を辞するを 泣くにあらず、
同じ林にて網を待つ者らに 胸は張り裂ける。

振り返れば神州の烽火は暗く、
百年の鐘鼎の栄華も 半ばすり減りたり。

鳳の詔のねんごろな戒め なお耳にあり、
謹言慎行も ついにいたずらな日々となる。

姉妹らはなお 薄絹の帳に眠れど、
明日は家財没収 血は河とならん!

あわれ枯骨は 名簿を満たし、
嘆かわしき紅顔は 劫難の波を待つ。

大夢に驚き覚めるは ただわれら、
筏を借りて海に浮かび 黄金の巣を捨つ。

長風に波を破り 雲の帆を掛け、
海広く天開けて 網を断ち絶つ。

この身の栄辱は 人の与うるものにあらず、
わずか方寸の心を おのれで慈しむ。

これより金の籠の鳥とは ならじ、
万里の長天 風波のままに行かん!

読み終えると、紙を二度折り、箱のいちばん下へ差し込んだ。のちに侍書が箱を整理して初めて、その白い紙に「南溟辞網歌」の文字が記してあるのを見た。

船は次第に遠ざかり、帆はすでに風をいっぱいにはらんでいた。探春はまた北の岸を眺めた。城の北に一筋の青煙が細く昇っていて、あの庵で今朝最初の香を焚いたかのようだった。探春はそれを見たが、それが誰なのかは尋ねなかった。

賈家の人々が渡し場から戻る間、宝玉はひと言も話さなかった。園の門へ入ったばかりの時、小者が、官船はもう川の曲がりを過ぎて、すっかり見えなくなったと言うのを聞くと、廊下の柱のそばに座り込み、涙を次々に落として言った。「三の妹が今度行ってしまったら、天の南、海の北に離ればなれだ。林妹妹は病んでいるし、二の姉さんはあんな家へ行ってしまった。姉妹が一人ずつ散ってしまう。こんな日々を、どうやって暮らしていけばいいんだ」

宝釵はそばに立ち、泣き声が少し収まるのを待って、ようやく言った。「三のお嬢さんは、船に乗る時、振り向かれた?」

宝玉ははっとして言った。「いや」

宝釵はそれ以上何も言わず、手に持っていた手巾を差し出した。宝玉は受け取り、園の方へ顔を向けた。あの杏の木は花がまだ散りきらぬうちに、枝の間から新しい葉を幾枚か出していた。春燕が幼い侍女を二人連れて、倒れた薔薇棚を起こしていたが、ようやく結んだ縄が、風が吹くとまた緩んだ。

探春の船が発った翌日、西寧王府はまず長史を寧国府へ遣わし、四のお嬢さまを養女に迎え、日を選んで王府へ引き取ると伝えた。賈珍はその場で承知した。そのあと王府の公文書が一通、ようやく栄国府へ届いたので、王夫人は惜春の院へ人をやって知らせた。使いの女中が院の門へ来ると、彩屏が門の外に座り、足もとに冷たい水の入った盆を一つ置いていた。

女中は言った。「早くお嬢さまにお知らせしておくれ。王府から、おめでたい公文書が届いたよ」

彩屏は答えず、ただ戸口の簾をきちんと閉じた。

実は彩屏は、王府の公文書が届いたことを早くに門番から聞き、すぐ戻って知らせていたのだった。女中は待ちくたびれ、手を伸ばして戸を押したが、中から閂がかかっていた。内からは「ちょき」「ちょき」と音がするばかりで、ひと音ずつ、ひどくゆっくり、ひどく確かに続いていた。女中は外から幾度か呼んだが、中では誰も答えなかった。

王夫人が自ら来た時、戸は細く開いた。床には黒髪が散り、惜春は窓を背にして座っていた。髪はもう大半が剪り落とされていたが、手には小さな鋏がなお握られ、一度、また一度と、手を休めなかった。鏡台の上では古い造花の箱が開き、中には薄絹を重ねて作った造花が二本あり、絹がすっかり黄ばんでいた。王夫人はしばらく立っていたが、やがて言った。「四の子、話があるなら、ゆっくり話そうではないか」

中はしんとしていた。王夫人は仕方なく公文書を持って帰った。彩屏はなお門の外に座り、灯をともす時刻になっても、ひと声も立てなかった。

さて二日たつと、妙玉があの幼い侍女だけを連れ、惜春の院の外へ来た。彩屏が急いで立ち上がり、まだ口も開かぬうちに、戸が内から開いた。

惜春は戸の内に立ち、剪り残した短い髪を一本の白い紐で束ねていた。妙玉を見ても挨拶はせず、ただ身を横にして通した。部屋の中は以前よりずっとがらんとしていた。壁に立てかけてあるのは、何年も描いてまだ仕上がらない園の絵で、半ば巻かれていた。櫳翠庵のあたりの低い塀は、まだ下描きの輪郭だけで、梅の花の下には薄く人影が立っていた。妙玉の目はそこに少し留まったが、何も言わなかった。窓辺の小卓には碁盤が置かれ、以前打ちかけたままの局面だった。二人は向かい合って座り、その打ちかけの碁を続けた。彩屏が茶を運んでくると、妙玉はその碗を見たが、ついに手をつけなかった。惜春も勧めなかった。

十数手打つと、惜春は左の隅の一団をまとめて捨てた。妙玉は手を止めて言った。「ここはまだ助かるわ」

惜春は言った。「助けてどうするの」

妙玉は一つの石を持ったまま長いこといたが、別の所へ打って言った。「わたしは生まれてこのかた、汚いということほど我慢のできないものはないわ。この前、わたしの所へ来た人は、門を入るなり、この庵は寂しいと言い、しまいにはわたしの年齢まで口にしたの。あなたやわたしのような所にまで、人が訪ねてきて一生を決めようとするのよ。逃れられるのなら、早く逃れてしまってこそ、清らかでいられるわ」

惜春は答えず、妙玉の髪を見て言った。「あなたの髪は、まだ残してあるのね」

妙玉は言った。「髪を残して修行しても、同じことよ」

惜春は言った。「同じではないわ」

三つ目の言葉はなかった。二人は残りの半局を打ち終えたが、どちらが勝ち、どちらが負けたのか、そばの彩屏には分からなかった。妙玉が立って帰ろうとすると、惜春は戸口まで送った。妙玉は惜春の鬢のあたりに剪り残された短い髪を見て言った。「きれいさっぱり剪ったのね」

惜春は言った。「きれいに見せるために剪ったのではないわ」

幼い侍女が碁盤を片づけようとすると、妙玉は振り返り、「そのままにしておいて」と言った。そう言って帰っていった。

春燕は毎朝早く木桶を提げ、怡紅院から蘅蕪苑まで、道に沿って水をやっていた。昔の花木の名簿に載っているものは、十のうち三つ四つがすでに枯れていた。遅咲きの海棠が一株、風に折られているのを見ると、しゃがみ込んで根元に土を寄せ、草縄を幾本か巡らせて、人に踏みつけられないようにした。

またある日、翠縷が湘雲の使いで節句の贈り物を届けに来た。賈家はまだ喪中なので、湘雲は自ら来るのを控え、送ったのも海産物数種、無地の絹二疋、衛家で作りたての菓子一箱だけだった。院の幼い侍女たちは、その海のものを見たことがなく、翠縷を取り囲んであれこれ尋ねた。中に殻に刺のあるものが一つあって、誰も名を言えなかった。一人が指さして尋ねた。「これは魚なの、果物なの。どうして全身に刺があるの」。一人は指で触ってみたが、すぐ引っ込めて言った。「何だっていいけど、手に刺さるのだけは本当だわ」。脇の者が笑った。「あなた、先に食べてみて。口に刺さったって翠縷姉さんのせいにするんじゃないよ」。皆が笑い、その声は鳳姐の部屋までじかに届いた。

鳳姐は薬を半碗飲んだばかりだったが、外の笑い声を聞くと、寝台の縁に手を突いて起きようとした。平児は急いで支え、「奥さま、お動きにならないで。翠縷は贈り物に来ただけです。あとで中へ呼んで、ご挨拶させますから」と言った。

鳳姐は半ばまで身を起こしたところで、目の前が暗くなり、また枕へ倒れた。そして言った。「あの子に叩頭してもらいたいわけじゃないよ。贈り物の目録を持っておいで、見ておくから。先方へのお返しに不足があってはいけない」

平児は言った。「みな用意してございます」。鳳姐はまた尋ねた。「おまえ、昔わたしについてきたあの幾人かを、まだ覚えているかい」。平児は「覚えております」とひと言答えただけで、その先は言わなかった。

隣で幼い侍女が一人、澄んだ声で笑った。鳳姐は目を開けて少し聞き、「あの子たちに、笑うなら外で笑うように言っておくれ。奥さまのお邪魔にならないように」と言った。

言い終わると、平児は急いで帳を下ろし、豊児に湯を取り替えさせた。窓台の上には二つの竹の篩に薬滓が広げられ、まだ捨ててなかった。

しばらくして平児が世話をしに外へ出ると、部屋には鳳姐一人になった。窓越しに翠縷が暇を告げて出てゆくのが聞こえ、道々まだこう言っていた。「お嬢さまのお言いつけで、この贈り物は、二の奥さまのお手にじかにお渡しして初めてお役目が済むのです」。鳳姐は横になったまま動かず、掛け布団の上を手で探り、取り替えて脇へ置いた半幅の古い布に触れると、しばらく握って、それからまた放した。

その晩、鳳姐は熱を出し、うつらうつらと眠りに落ちた。すると秦氏が簾の外から入ってきた。昔と変わらぬ清らかに美しい姿で、襟元には草の葉一本なく、手にも何一つ持っていなかった。鳳姐が起きようとすると、秦氏はただ寝台の前に立って言った。「命運は尽きる定めです」。言い終わると、身を返して去った。鳳姐が目を開けると、帳の外の灯心はひどく長く燃えさしていた。平児は足台に伏して眠り、手には血に染まった半幅の古い布をまだ握っていた。鳳姐はしばらく眺めていたが、起こさなかった。

翌日、賈璉が部屋へ入り、寝台の前に立って鳳姐を見た。鳳姐は平児を下がらせ、言った。「何か言いたいことがあるなら、おっしゃいな」

賈璉は言った。「何もない」

鳳姐は冷たく笑った。「何もないなら、立っていてどうするの」

賈璉はなおしばらく立っていたが、身を返して出ていき、外の間に座った。手に本を一冊持っていたが、開きはせず、ただ手の中で返したり返したりし、指で背を強くつかんで、内の様子を聞いていた。鳳姐は寝台の脇の薬碗を取り上げ、唇まで持っていって、また置いた。午後、平児が粥を運んできたが、ひと口しか食べなかった。賈璉がまた入ってきても何も尋ねず、鳳姐も口をきかず、ただ彩明に古い帳簿を枕もとへ運ばせた。二頁ほどめくると、朱筆が指の間から掛け布団の上へ落ち、赤い点を一つつけた。平児が急いで手巾を持ってきて拭こうとすると、鳳姐は首を振り、そのまま帳簿をめくり続けた。さて、この帳簿からのちに何が見つかったか。それは次回のお話で。

この翻訳について

人名は日本語で読める漢字表記を基本とし、松枝茂夫訳を参照する際も、未確認の読みを断定しません。秦漢の中国語原作から独立して訳し、会話や詩詞、語られていないことを残しています。