『銀河英雄伝説』を読む
不文律と二つの政治の失敗から出発し、「否」と言える人、何も生まなかった死、そしてどんな制度も避けられない継承の問題へ進む、五つの批評。
『銀河英雄伝説』は、よい民主制と悪い専制を便利な比較表に並べてはくれない。腐敗した共和制の向かい側に、並外れて有能な皇帝を置く。現実の実績が明らかに専制者を支持しているとき、私たちは何を根拠に制度を判断できるのか、と問う。
この五篇では、ラインハルトとヤン・ウェンリーの能力比べとして物語を読まない。誤りを正すこと、後を継ぐこと、責任を負うこと、そして誰がなお統治者に「否」と言えるのか。その仕組みを読む。対象は小説と旧OVA本伝全110話。全篇、結末までの内容に触れる。
- 1 / 5兼任を禁じていたのは不文律だった宇宙暦三世紀。銀河連邦。 ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムという軍人が、宇宙海賊の討伐で功績を重ね、少将まで昇進する。やがて軍を退き、政界へ転じた。 人気は圧倒的だった。どうにか当選できる、といった程度ではない。支持を争う相手すら、ほとんどいなかった。 人々が英雄として迎えたのは、彼が実際に英雄の仕事をしていたからだ。軍紀を立て直し、海賊を一掃する。宣伝が作った手柄ではなく、確かめられる成果があった。それまで何年も放置され、誰も片づけられなかった仕事を、
- 2 / 5彼を止められる、ただ一人の人帝国暦488年八月。 内戦のさなかである。一方は下級貴族の出から戦功を重ねてきたラインハルト・フォン・ローエングラム。もう一方は、門閥貴族を中核とするリップシュタット連合軍。 連合軍を率いるブラウンシュヴァイク公爵の領地に、ヴェスターラントという惑星がある。その住民が反乱を起こし、公爵の甥を殺した。
- 3 / 5手を伸ばせば届くものを、取らない人会議室がある。上座には数人の政治家、下座には一人の軍人が座っている。 上の席の者たちが、下の席の男の忠誠を問いただす。野心があるのではないか。部下は君の命令しか聞かないのではないか。反乱を起こすつもりはないか。質問の趣旨は、そういうものだ。 軍人は、戦いを終えたばかりだった。その戦いで、この国は救われた。
- 4 / 5その死は何も証明しなかった宇宙暦800年六月一日、午前二時五十五分。 巡航艦レダII号は、ブリュンヒルトへ向かっていた。皇帝ラインハルトが会談を申し入れ、ヤン・ウェンリーが応じたのだ。 その艦に、地球教のテロリストが入り込んだ。 計画を知った者はいた。ヤンの出発後、ボリス・コーネフがイゼルローンに到着し、暗殺計画を知らせた。ユリアンたちは、すぐに出港して追った。
- 5 / 5いちばん優れた人が、いなくなったら一人の男が、病床に横たわっている。二十五歳。 人類が住む星域のすべてを統一した。戦ったほとんどの戦いに勝った。彼の築いた王朝は、彼の手の下で、この五百年のどの時代よりもうまく動いている。 その彼が病み、病は治らない。 後に残るのは、まだ乳飲み子の息子と、摂政として統治を担う妻だった。