この版について
この版について:中国語原文の議論を、日本語の読者に向けて書き直したもの。原文は同じページで簡体字・繁体字を切り替えて読める。
早川アキは、三体の悪魔と契約している。
狐の悪魔には体の一部を差し出す。呪いの悪魔には、使うたびに寿命を払う。未来の悪魔が求めたのは、アキの右目に住むことだった。そのうえで、ひどい死に方をすると告げた。
それでも、契約した。
これらの契約を結ぶのは、殺したい悪魔が一体いるからだ。その悪魔に、家族を皆殺しにされた。
この一篇で考えたいのは、人生を丸ごと貫く、巨大で、明確な、一つの目的である。
彼が求めたもの
アキが十代のころ、銃の悪魔が両親と弟を殺した。
そのとき彼はその場にいなかった。あるいは、いたけれども生き残ったと言うべきか。戻ったときには、もう家はなかった。
まだ学生だった。
それ以来、することのすべてが同じ目標に向かう。採用試験を経て公安に入り、デビルハンターの部署へ進み、最も危険な任務を引き受け、寿命を武器に換える。結婚しない。遊ばない。自分に逃げ道を残さない。
人生が一本の直線になっている。
その線の上に、ほかのものはない。趣味もない。金を貯めるつもりも、行ってみたい場所もない。誰かと一緒になりたいと思ったこともない。あれほど長く姫野と組んでいたのに、線がそちらへ曲がることはなかった。
彼は自分のすべてを、一つの道具として組み立てた。その道具の使い道は一つだけだ。
デンジとは正反対である。デンジの願いは、細かなかけらの寄せ集めで、一つ一つは小さい。アキの願いはただ一つ。しかも人生を丸ごと収められるほど大きい。
彼が払う代金
では、この直線を生きる値段を見よう。
呪いの悪魔との契約では、力を使うたびに寿命を差し出さなければならない。そのせいで何年を失ったのか、作品は明示している。計算できる数字であり、彼自身がその都度、自分からつぎ込んだものだ。
未来の悪魔との契約には、警告が伴った。右目に住むことを求めた悪魔は、アキにひどい死が待っていると告げる。アキはその時点では、具体的な死に方を聞こうとしなかった。それでも契約した。
その目的のために払っているのは、少しずつ切り取られる自分の寿命だ。請求書を持って払いに行くのも、毎回、自分なのである。
デンジとは、ここでも逆になる。デンジは一枚ずつ食べさせてもらう。ずっと受け取る側だ。アキは寿命を少しずつ差し出す。ずっと与える側にいる。
そして二人とも、同じ人間に握られている。
割に合うかどうかを、ここで判定する必要はない。見たいのは、この構造だ。目的が一つしかない人間は、その目的を前へ進めるものなら何でも取る。ということは、その目的を握る人間は、彼自身も握れるのである。
マキマはどこを握っているのか
ここで、前の二篇とつなげよう。
マキマがデンジをつかまえるのは、一枚ずつのパンを通してだった。
アキをつかまえるのは、あの目的を通してだ。
彼女は上司であり、銃の悪魔に関する情報を握っている。彼がその目標に近づけるかどうかを決める立場にある。そして肝心なところで、私についてくれば目的を果たせる、と告げる。
巨大な目的も、小さな願いの寄せ集めも、他人につかまれるかどうかという点では、同じものだ。
違うのは、動かし方だけである。小さな願いを握るには、一日ごとに与え続けなければならない。巨大な目的を握るには、一言あればいい。しかも、その一言は何年も果たさずにおける。
むしろ後者のほうが楽だ、とさえ言える。目的が一つしかない相手なら、毎日食べさせる必要はない。この道はそこへつながっている、と信じさせておけばいい。
姫野が死んだあと
アキと姫野は相棒だった。この部署で彼に最も近く、彼が仕事を辞めたあとのことを口にした、ただ一人の人間でもあった。
彼女はサムライソードとの戦いで死んだ。アキを生かすために、体を丸ごと幽霊の悪魔に渡した。
アキは生き残った。
そのあと、彼の中に、あの直線とは関係のないものが現れ始める。
ほかのものが増えていく
具体的には、こんなことだ。
デンジとパワーが彼のアパートに越してくる。三人で暮らすようになる。
アキは料理をする。作品は何度もそれを描く。台所にアキがいて、そばでデンジとパワーが騒いでいる。
猫を飼う。祝いの日も一緒に過ごす。一緒に温泉へ行く。喧嘩する。ひどい喧嘩になっても、終わればまた一緒に飯を食う。
買い物をするとき、アキは三人分を考えるようになる。デンジの寝起きの時間に口を出し、パワーが風呂に入るかどうかまで気にかける。
自分でもうまく言えないものが、一つでき始める。この三人の暮らしが続いてほしい、という気持ちだ。
その気持ちが収まる場所は、あの直線の上にはない。銃の悪魔とも、家族の死とも、寿命を支払ってまで追ってきた目的とも、関係がない。
作品はこの変化を強調しない。アキがようやく新しい生きがいを見つけた、と説明しない。本人に何かを宣言させることもない。料理し、喧嘩し、洗濯する日々を、しばらく描くだけだ。
その日々の中でも、直線は残っている。銃の悪魔を殺すことを、彼は捨てていない。二つのものが、同時に彼の中にあり、それぞれの場所を占めている。
ほかのものを持ち始めた時期が、ちょうど、彼が死に最も近づいた時期だった。
順序は、作品の中ではっきりしている。日常があり、そのあとに銃の悪魔が来る。
あとから増えたものも、奪われうる。
直線の先に置いた目的は、自分で選び、自分で代金を払い、代償も承知していた。あとから加わったもの、アパート、料理、うるさい二人の同居人は、選んだわけでも、代金を払ったわけでもない。どんな計画にも入っていなかった。
最後には、同じ出来事が二つとも持ち去る。
未来の悪魔に見えたもの
あの契約に戻ろう。
契約のとき、アキの最期を見たのは未来の悪魔であって、アキ本人ではない。悪魔はその光景を喜んでいる。実に見事な死に方だ、というほどの反応だ。アキがまず受け取ったのは、ひどい死に方をするという警告だった。具体的な最期の光景を見せられるのは、もっとあとのことだ。
その警告を受けたときから、アキは自分がひどい死に方をすると知っていた。それでも前へ進んだ。
ここでは一つ問いを置くだけにして、答えは出さない。結末を知っても、もとの道を進み続ける。それは、その目的に強くつかまれているということなのか。それとも、自分でその道を引き受けたということなのか。
作品は、問いを開いたままにする。アキに説明させない。ただ、料理を続けさせ、訓練を続けさせ、次の任務を引き受けさせる。
その目的が使い切られるまで
最後に、アキの結末だ。
銃の悪魔の一部が襲撃する。アキはその攻撃で死んだ。そのあと死体を悪魔に乗っ取られ、銃の魔人になる。
つまり、生涯をかけて殺そうとしたものが、最後には自分の体から生えてくる。
そのものになった彼の前に立つのは、デンジだった。
その日デンジがしたことは、彼自身の願いのリストとは、何一つ関係がなかった。
アキはもういない。
だが、この死には、さらに冷たい一面がある。それを見るには、デンジが銃の魔人と向き合う前、銃の悪魔との戦いへ戻らなければならない。
次の一篇へ。