『新世紀エヴァンゲリオン』を読む
シンジはなぜエヴァに乗るのか。そこから五つの篇を通じて、取り替えの利く人間、下がり続けるアスカの数字、碇ゲンドウが取り戻したい一人の人、そして苦しみを生むと同時に関係を可能にする壁を読んでいく。
『新世紀エヴァンゲリオン』は、傷ついた人々が互いにつながれない物語だとよく言われる。この連作では、仕組みの方から問い直してみたい。作品は彼らにどんなつながりを差し出し、そのつながりは何を要求するのか。そして、人を認めることは、いつ、その人を利用する別のやり方へと変わるのか。
主に扱うのはTVシリーズと『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(The End of Evangelion)。新劇場版の連続性は含めない。全篇、結末までの内容に触れる。
- 1 / 5彼がエヴァに乗る理由十四歳の少年が、来たこともない街に呼び出される。 呼んだのは父親だ。幼いころに彼を人に預け、それからほとんど連絡を寄こさなかった父親である。 街は攻撃を受けている。着いたときには警報が鳴り、通りに人影はなく、空には何かが飛んでいる。手元にあるのは、住所の書かれた紙と、女の人の写真が一枚。 迎えに来た人に連れられて、地下へ下りていく。どこまでも下へ。そこで、とてつもなく大きなものを目にする。液体に半ば沈んだ顔。ビルよりも高い。
- 2 / 5予備のある人巨大な水槽がある。 淡い色の液体の中に、身体が何列も並んでいる。どれも同じ少女の姿。どれも裸で、口を開き、何とも言いようのない表情を浮かべている。 赤木リツコがシンジとミサトを地下へ連れてきて見せたのは、これだった。 その少女は、いまも上の階にいる。生きている。二人の同僚として。 シンジは水槽を見つめる。その時点で彼はすでに、あの少女と言葉を交わし、食事をともにし、火の中から背負い出したことがあった。
- 3 / 5あの数字コックピットには、シンクロ率と呼ばれる数値がある。 パイロットと機体がどれだけ同調しているかを示す。高ければ機体はよく動き、低ければ言うことを聞かない。あるところまで下がると、起動さえしなくなる。 その数字は毎回測られ、記録され、比べられる。 だが惣流・アスカ・ラングレーにとって、それは単なる指標ではない。
- 4 / 5彼が求めたのは一人の人間男が机の向こうに座っている。手袋をはめた両手を顔の前で組み、色のついた眼鏡をかけている。 この組織の最高責任者だ。戦争に関する情報のすべてを握り、子供たちの配置を決め、人類の将来にかかわる計画を握っている。 息子を捨て、十年も連絡せず、必要になったところで呼び戻して「乗れ」と言ったのも、この男である。
- 5 / 5あの壁この作品には、初めは軍事用語として登場する言葉がある。 A.T.フィールド。使徒が展開し、エヴァも展開する。弾丸や砲撃を防ぎ、ほかのフィールドを遮る障壁だ。戦いに勝つには、まず相手のそれを中和しなければならない。 物語が進むと、この言葉の意味が、もう一度定め直される。 心の壁。魂の光。それは使徒だけのものではない。一人一人の人間にもある。