相転移窓と実験設計
有効な介入が、大規模試験では無効に見えることがある。原因は介入そのものではなく、現象が持つ閾値構造と、試験が使う二値分析の不一致かもしれない。特に介入群の実現曝露が大きくばらつき、効果が立ち上がる点まで届いた人が少ない場合、「割り付けられた/されない」だけの比較は信号を系統的に薄める。
1. 三段階応答と非対称比
状態空間への浸透深度をz、反転点をF、確立点をE、最大効果をδとし、応答g(z)を次の三段階で表す。
g(z)=0 (z<F)
g(z)=δ(z−F)/(E−F) (F≤z<E)
g(z)=δ (z≥E)
Fまでの長い区間では微視的変化があっても巨視的な正味効果が出ない。Fを越えると効果が立ち上がり、Eで確立する。閾値の位置だけでなく、その両側の距離を比べる。
r = F/(E−F)
r=1なら対称、r≫1なら萌芽までが長く、反転後の確立が短い。さらに介入群で反転点を越えた割合を πcross=P(Zi≥F | treated) とする。曝露が指数分布Exp(μ)なら πcross=exp(−F/μ) となり、Fが遠いほど越境者は急減する。
2. ZFCρの相転移窓から得た先験
ZFCρの整数複雑度では、加法的なsuccessor経路から乗法経路が優勢になる変化を、素因数個数Ωに沿って観察できる。複数指標は同じ点で一斉に変わらず、段階的な窓を作った。
| 段階 | Ωの目安 | 意味 |
|---|---|---|
| 萌芽 | 2.750 | 乗法経路が多数で勝ち始める |
| スペクトル反転 | 約3.14 | 感受性がピークを迎える |
| 遮蔽閾値 | 3.710 | wshielded=2/3となり、緩衝の優勢が崩れる |
| 反転 | 3.790 | 正味効果が負から正へ |
| 確立 | 4.012 | 加法経路の局所競争力が消える |
萌芽から反転まで1.04、反転から確立まで0.22で、比は約4.7、丸めて約5となる。これはZFCρ内部の数値結果であり、他分野の普遍定数ではない。本稿の一般論に必要なのは具体値5ではなく、r≫1になりうるという弱い条件である。分野を越えて同じ偏りが成立するかは経験的に試されなければならない。
希釈の大きさを示すMonte Carlo例では、r=5、確立深度E−F=0.3、各群500人、完全効果d=0.8という条件で、二値分析の検出力は9.3%にとどまり、time-in-zone分析は97.7%に達した。これは一般的な効果量の主張ではなく、連続する機構変数を二値化すると何が失われるかを示す計算例である。
3. 信号希釈定理
結末を Yi=g(Zi)+εi、εi~N(0,σ²) とする。対照群のZがほぼ0なら、二値割付によるITT平均処置効果は ATE=E[g(Zi) | treated] となる。ところが介入群のうちπcrossしかFを越えなければ、萌芽区のゼロ効果が最大効果δを薄める。rが大きいほど一般にπcrossは小さくなり、希釈は強くなる。
標本数を増やせば標準誤差は下がるが、希釈されたATE自体は回復しない。大人数で「ほぼゼロ」を精密に推定することさえある。一方、事前に定義された越境者に条件づければ平均効果はδへ近づく。小規模研究の選抜群では越境率が高く、大規模RCTでは母集団基準へ戻るため、「初期研究は有望、確証試験は陰性」というパターンも生じうる。
4. 適用条件と因果推論の注意
この定理は万能ではない。少なくとも四条件が必要である。
- 応答関数に閾値がある。
- 介入群内の実現曝露が大きく異なる。
- 研究が連続曝露を測らない、または分析に使わない。
- 介入は基礎層に作用し、結末は創発層で測られる。
time-in-zone、すなわち反転点以上の状態にいた累積時間は有力な変数だが、無作為化後の変数である。ITTを単純に置き換えれば因果識別を損なう。合法的な使い方は、ITTに加えた機構的副次解析、曝露強度を無作為化する適応的滴定、principal stratumやCACEによるcomplier効果の推定などである。生存や高い遵守を前提にTIZが増える場合はimmortal time biasにも注意する。
5. 実験設計への四提案
- 大規模試験の前に、小標本の密な測定で状態変数と結末の折れ点を探し、rを推定する。
- 監視頻度を行政上の都合ではなく、FからEまでの短い距離に合わせる。
- ITT主解析を維持しつつ、事前規定したtime-in-zone/曝露反応解析を併記する。
- 「介入は無効」と結論する前に、何割が反転点を越え、どれだけ維持したかを確認する。
曝露未達の陰性は、実施法が機構へ届かなかったことを示す。十分な曝露を事前に確認した上での陰性こそ、機構に対する強い反証となる。同じ論理は毒性にも及ぶ。短期試験で毒性閾値を越える人が少なければ安全に見え、長期実世界で越境者が増えて後から問題が出る可能性がある。
6. 何が反証になるか
枠組みが正しければ、適用条件を満たす試験では、事前定義された越境者の効果が全体ITTより大きく、time-in-zoneモデルが二値モデルより説明力を持つはずだ。また複数の構―創発系で推定したrは1より大きい側へ偏ると予測される。
反対に、十分な曝露を確認した越境者でも効果がゼロ、TIZが何の追加説明力も持たず、分野横断データのrが1付近または逆向きなら、主張の適用範囲を大幅に狭める必要がある。数学から来た比率は、医学や教育に移した瞬間から経験的仮説になる。