文学と文化 · 上橋菜穂子『香君』
『香君』を読む
豊かさ、制度、そして孤独から生まれる聴取
『香君』の帝国は、暴力だけで人を従わせない。飢えをなくす稲、秩序を保証する生き神、そして自然を管理可能な資源へ変える知識によって、人々の生存そのものを制度へ結びつける。恩恵と支配が同じ形を取るため、退出は反乱よりも難しい。
三篇は、オアレ稲の豊穣、香君という地位、香りの声を聞く少女アイシャを順に追う。問題は帝国を単純に悪と呼ぶことではない。便利さが他の可能性を消すとき、役割が人格を食い尽くすとき、聞こえない声を制度へ戻すには何が必要かを考える。