村上春樹・全5篇 · 02 / 05
綿谷ノボル
綿谷ノボルの権力は偽物ではない。学歴、テレビ、選挙、家族がそれぞれ正規に力を渡すため、彼に何かを奪われたという感覚だけが証拠の外へ残る。
場面
研究者は分かりやすい解説者となり、世襲の選挙区から政治家になる。彼は論理的で失言せず、亨が感じる嫌悪には、公の場で提出できる事実がない。
そこにある仕組み
小説はその困難を、人の内側へ入り何かを取り去る超自然的な力として並べる。クレタもクミコも変えられたと感じるが、奪われたものに公的な名を付けられない。
残る問い
だから勝負は中立ではない。大学、番組、議会、家族の語彙はすでにノボル側にある。手続が正しいことと、その力が触れた人を壊さないことは同じではない。
日本語読者に向け、歴史と日常、説明できない出来事の距離を保って独立に再構成した版です。全編のネタバレを含みます。