文学と文化 · カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
『わたしを離さないで』を読む
善意、想像力、そして自分の人生を決める権利
『わたしを離さないで』の恐ろしさは、残酷な場面よりも穏やかな日常にある。ヘールシャムの子どもたちは教育され、健康を守られ、芸術を奨励される。それでも、自分の身体が何のためにあるのかを決める場所には一度も立ち会えない。
三篇は、善意が人間の道具化と両立してしまう仕組み、制度が希望の大きさまで内面から制限する仕組み、そして『魂の証明』という問いそのものに潜む権力を追う。筋を説明するためではなく、この静かな小説が読者の現在へ残す違和感を、日本語の批評として組み直した。