Non DubitoEssays in the Self-as-an-End Tradition
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SAE経済学シリーズ
第1篇・全6篇

経済学が取りこぼしたもの

合理性は一層ではなく、効用関数には譲れない線を収めきれない

合理的経済人を12DDから15DDまでの四層に分け、価格のつかない約束と、二つの譲れない線から生まれる genuine C がなぜ標準的な効用言語からこぼれるのかを診断する。

Han Qin (秦汉)·2026

経済学の最も強い仮定は、人は合理的に選ぶ、というものだ。選択肢と選好が与えられれば、主体は効用が最大になるものを選ぶ。この仮定は価格理論、ゲーム理論、マクロ経済モデルを支え、実際の市場の広い範囲をよく説明する。問題は誤りにあるのではない。そこでいう「合理性」が、合理性の一つの層だけを指していることにある。

四つの認知操作

次元系列理論(SAE)は、経済行為に現れる合理性を次の四層に区別する。数字が大きいほど善い人になるという序列ではなく、それぞれが何を知覚し、何を操作できるかの違いである。

中心となる操作経済学上の近似
12DD利得を比較し最大化する標準的な合理的主体
13DD不確実性を監視し「自分は誤りうる」と知る行動経済学による補正
14DD「そうせずにはいられない」という非交換的な約束をもつ聖なる価値、保護価値、アイデンティティ
15DD相手の譲れない線も実在すると知覚し、そのあいだに新しい解をつくる確立した対応概念はない

合理的経済人は主として12DDにいる。カーネマン以後の行動経済学は、判断の偏りや自己認識の誤差、すなわち13DDで生じる実行上のずれを精密にした。しかし14DDと15DDは、主流経済学の語彙に翻訳されると固有の構造を失いやすい。

「高すぎる価格」と「取引が存在しない」は違う

たとえば、ある人が「いくら積まれてもこれは売らない」と言う。効用の言語では、その物への評価額が極端に高い、と表現できる。だが本人が言っているのは、提示額がまだ留保価格に届かないということではなく、その交換操作を自分の選択集合に入れないということかもしれない。価格を無限大へ近づけることと、価格軸から降りることは同じではない。

交渉にも同じ翻訳損失がある。A案を守る者とB案を守る者が、対話の末に、入室時にはどちらの選択集合にもなかったCを生む。経済学は拡張された実行可能集合からパレート改善を「発見した」と記述できる。しかしここでのCは、既存案の折半でも、互いが少しずつ敗れる妥協でもない。双方が譲れないものを捨てなかったからこそ作られた新しい経路である。本シリーズではこれを genuine C と呼ぶ。

効用へ押し込めば同じに見える

観察された行動だけを整合的な選好へ写せば、ほとんど何でも効用関数で表現できる。家族の手紙を売らない人も、価格をつり上げるために売却を拒む人も、その場では同じ「非売却」を選ぶ。しかし前者は圧力が増しても線を保ち、後者は十分な提示で態度を変える。結果が同じ一時点だけを見れば、真の非交換性と戦略的な留保価格を区別できない。

「無限に大きな効用を置けばよい」という処理も、計算上は可能である。だがそれでは、何がその線を成立させ、どの関係で変わらず、破った後に主体がなぜ以前と同じ自分でいられないのかを説明できない。記述の形式に収まることと、生成機構を捉えることは別問題である。

非合理という誤診

低い層の語彙だけで見ると、売却拒否は非合理、合意なしは交渉失敗、妥協拒否は頑固さになる。だが14DDにとって、譲れば自分の行為を支える約束そのものが失われる。15DDにとって、条件のない合意を演じるより、genuine C がまだないと認める方が合理的である。

経済学が非合理と名づけてきた行為の一部は、非合理なのではない。高い層の合理性を、低い層の測定枠が系統的に読み違えた結果である。

目的の国と手段の国

カントのいう「目的の国」とは、各理性的存在者が、単なる手段としてではなく、それ自体が目的でもある者として相互に結びつく秩序である。これとの対照を明確にするため、本シリーズは「手段の国」という分析語を用いる。そこでは価値は選好として表され、選好は交換でき、主体は互いの目的を達成するための利用可能な手段として扱われる。

手段の国は悪罵ではない。貨幣交換、分業、契約の膨大な領域を正確に動かしてきた有効な構造である。ただし、それが経済の全部だとすると、非交換的な約束も、二人の主体から創発する genuine C も見えなくなる。経済学が取りこぼしたのは善意ではなく、合理性の残り三層なのである。

必要なのは効用理論を捨てることではない。価格で動く領域では12DDの模型を使い、反事実にも耐える線が現れたら14DDへ、二主体が選択集合そのものを作り替えたら15DDへ記述を切り替えることである。模型の射程を知ることもまた、合理性の一部である。

中国語版を論旨の底本とし、日本語の経済思想・哲学読者に向けて独立に再構成した版です。 中文・English