世界を自分のものにせず、働きかける
本章の中国語原文
帛書の校訂本文 · 本注で採用した読み
将欲取天下而为之,吾见其弗得已。夫天下神器也,非可为者也。为者败之,执者失之。物或行或随,或嘘或吹,或强或羸,或培或隳,是以圣人去甚、去大、去奢。
底本と句読点について
著者の『道德经注·君子不器』で採用した帛書の校訂本文に基づきます。甲本・乙本を参照し、校訂や補字を加えたもので、どちらか一方を一字ずつ写した翻刻ではありません。章番号は通行本に、句読点は本注に従います。閲覧言語を切り替えても、経文の中国語表記は変わりません。
一 何かを「取りにいく」人
ある創業者が言う。「この市場を取りにいく」。
あるPMが言う。「ユーザー体験を、まるごと僕らが握る」。
ある親が言う。「この子を、最高の姿にしてみせる」。
ある政治家が言う。「この国を偉大にしてみせる」。
こうした願いには、善意から出たものもある。しかし善意だけでは答えられない問いがある。何かが育つのを助けているのか、自分の思いどおりにしか育たせないのか。
第二十九章はそこを警告する。「弗」の強い語調から、いつでも「不」より強いという序列や、必ず的中する歴史法則を導く必要はない。読むべきなのは占有の限界であって、成功を予測する公式ではない。
「将(まさ)に天下を取りて之を為さんと欲するも、吾其の得ざるを見るのみ。」
二 天下は神器である
老子の立論の核は、次の一句にある。
「夫れ天下は神器なり、為す可き者に非ざるなり。」
「神器」という言葉に、まず足を止めたい。天下は目の前に置かれた、自分の都合で使える家具ではない。「神」には神妙で軽んじがたい響きがある。ここでは全体への畏れとして読むのであって、古い一字を現代のシステム理論の証明にはしない。
前章の器には用途があった。今章は天下を神器と呼ぶ。椅子なら好きな場所に置けるが、都市は市長の図面だけでは生きられない。街には答え、拒み、別の計画を立てる人がいる。
都市計画をやめよという話ではない。必要な計画を、暮らしの側から修正できるか。図面が都市のすべてを名乗る瞬間が問われている。
三 為す者は之を敗り、執る者は之を失う
老子は続けて言う。
「為す者は之を敗り、執る者は之を失う。」
ここでの「為」は、天下を手に入れて意のままに作り変えようとする文脈で読む。批判されるのはその独占であって、あらゆる行動ではない。第二章の「為而弗志」にも、為すことは残っている。
道を修め、暴力を止め、公衆衛生への対応を組織する。引き受けるべき仕事はある。「執らない」を責任の放棄にしてはいけない。応答を受け入れ、影響される人の声を聞き、止める時を知れるかが問われる。
ハンドルを握るのは運転するためで、道の曲がりをなくすためではない。手を離しても、固めてもいけない。
四 変化を映す四つの対
次に老子は、異なるリズムを目の前に置く。
「物は或いは行き或いは随い、或いは嘘(きょ)し或いは吹き、或いは強く或いは羸(よわ)く、或いは培(つちか)い或いは隳(くず)る。」
四つの対は違うリズムを見せる。行くことと従うこと、嘘と吹、強さと弱さ、培うことと壊れること。宇宙の運動を網羅する表ではない。予定表に変化のすべては入らない、という手がかりだ。
先を行く人も疲れる。従っていた人が、次の道を知っていることもある。強弱も永久の身分ではない。昨日いちばん頼れた人が、今日は交代を必要とする。
嘘と吹は、温かな息をゆっくり吐くことと、冷ますために吹く経験から考えられる。ただし身体の意象であり、呼気で生死を判定する生理学ではない。同じ息でも、仕方と働きが違う。
培と隳は固めることと崩れることの対照として読める。堤防や家を補強し、頼れる制度を保つのが間違いなのではない。一度直したら点検不要だと思うのが危うい。川も材料も人の必要も変わる。
計画に見直しを、介護に交代を、制度に異議申立てを残す。秩序を捨てるのでなく、秩序を現実につなぎとめるのである。
五 聖人は甚だしきを去り、大なるを去り、奢れるを去る
最後に、老子は逆向きの働き方を示す——
「是を以て聖人は甚だしきを去り、大なるを去り、奢れるを去る。」
甚を去るとは、相手の余地がなくなるまで押し進めないこと。大を去るとは、全体を自分の尺度に収めないこと。奢を去るとは、要求できる力を示すためだけの要求を見直すことだと読める。
本稿は帛書の「大」で考える。伝世本は「泰」であり、古い用法では両字が通じる例もある。この違いだけで、後人が意図的に道徳訓へ変えたとは断定できない。
三句を日常の一問にすればこうなる。すべてを自分の作品にしなくても、自分の仕事を果たせるだろうか。
世界を自分のものにせず、働きかける
今に戻れば、創業者は決断せず、親は世話をせず、公の仕事は誰も担わない、という章ではない。
製品の方向は決める。ただ利用者の声を消すべき雑音にしない。計画は立てる。ただ現実に追い越された計画を直しても無能の証明にはならない。親は守る。ただ保護を一生の代決に延長しない。
子は別の職を選ぶかもしれないし、まだ答えがないかもしれない。「あなたのため」で違いをすべて誤りにしない。全部に賛成しなくても、話を続ける余地はある。
支配しなければ失わず、所有しなければ成功する、という逆の保証もない。関係は変わり、計画は失敗する。占有を手放すのは、まず他人の存在への請求権を下ろすこと。成功の保険ではない。
「為す者は之を敗り、執る者は之を失う」。手元のわずかな制御を、全体の所有権と取り違えていないか。