部屋に入った途端、目的が消える。場所は見えているのに、どこへ向かえばよいか分からず立ち止まる。
意図は、目の前の物に意味を与えていた。本を取りに来たなら棚が中心になり、水なら台所が行き先になる。
目的が抜けると、慣れた空間が一瞬だけ平らになる。世界を知っていても、その中での自分の位置を失う。
元の場所へ戻ると思い出すのは、記憶が身体や景色に支えられているからだ。意志は頭の中だけに保存されていない。
この小さな迷子は、方向がいつも自明ではないと教える。目的を取り戻すには、ときに一歩戻り、始めた場面へ会い直す必要がある。